前回お伝えした適切な情報を収集する方法に続き、今回は、賢明な判断を下す方法についてお話します。(前回の内容は、www.tsurutaikuko.com でご覧になれます。)
スイスの精神科医ユングは、人には、もって生まれた「指向」があり、それによって、ものの見方、考え方、行動のしかたが異なると提唱しました。このユングのタイプ論を元に開発された性格検査MBTIでは、「指向」による判断のしかたの違いを次のように説明しています。(MBTI詳細は、こちらをご覧ください。http://lalife.greater.jp/mbti/)
A 思考機能を外に向けて使うことを指向する人は、思考機能を使って自分の周囲の世界に接し、てきぱきと物事を決め、論理的、分析的にとらえる。
B 思考機能を内に向けて使うことを指向する人は、思考機能を使って自分の周囲の世界に接し、情報や考えを理論的に評価する。
C 感情機能を外に向けて使うことを指向する人は、感情機能を使って自分の周囲の世界に接し、てきぱきと物事を決め、協力的で思いやりのある対応をする。
D 感情機能を内に向けて使うことを指向する人は、感情機能を使って自分の内面の世界に接し、思いや価値観にのっとった情報や考えを評価検討する。
賢明な判断を下す練習
東日本大震災の取材のため、日本に行っていたテレビ局勤務の知り合いが、先日、ロサンゼルスに戻ってきました。知人が、帰りの飛行機の中で、日本人と隣り合わせになったので、なぜ、アメリカに行くのか聞いたところ、「被爆の可能性がある日本にはいられない。だから、現金とパスポートだけもって、空港にかけつけ、一番早くアメリカに着く飛行機の切符を買った」とのこと。知人がさらに、その人に、アメリカに着いてからの予定を聞くと、「何とかして、できるだけ長くアメリカにとどまりたい」といいながらも、これといった計画は、なかったそうです。
情報収集のしかたでもお伝えしたように、「指向」とは、個人がより優先的に使う考え方、行動のしかたの傾向です。Aしか使えない、Bだけ使うというものではなく、だれもが、大なり小なり、全てのやり方を使っています。
ですから、知人が飛行機の中で隣り合わせた日本人も、2001年の9・11以降、米国の永住権取得、米国内でのビザ延長および切り替えが、とても難しくなっていること、不法労働の取締りが強化されていること、ベトナム戦争の難民と同じ心境で、日本を飛び出しても、アメリカに観光ビザで入国してくる日本人は、難民扱いされないことを少しは、考えただろうと思います。
しかし、その日本人は、あえて、着の身着のまま、日本を脱出する道を選びました。そして、無事、アメリカに到着したわけですが、もし、その日、空港で実施されていた放射能被爆反応検査に引っかかっていたら、その日本人の生活は、のっけから想像もしない展開になっていたに違いありません。
その人の判断が賢明かどうかは、その人自身が決めることです。それでも、日ごろから、A、B、C、Dすべての方法を使って判断を下す練習をしていれば、「しまった!」と思う回数が、減るのは確かです。また、たとえ、「しまった!」と思うことがあっても、「あのときは、精一杯考えて決断したのだから」と、潔く思えるので、立ち直りが早くなり、行動の結果を前向きに対処できるようになります。
判断を下す際のヒント
みなさんご存知のとおり、今、世界中で、日本の復興を願う募金活動が行われています。
そのため、義援金提供の機会が、日常生活の中で、たび重なるという事態が、生じています。この間、個人で義援金を出したばかりなのに、今度は、自分が働く部署で義援金を集め始めた。スーパーマーケットでも、子供の通う塾でも、スポーツクラブでも義援金を頼まれるといった具合です。
人間、霞を食べて生きているわけではありませんから、ない袖は触れません。でも、義援金という「大義名分」を目にすると、お金を入れないことに、心苦しさを感じたり、肩身の狭い思いをしてしまうことがあります。
そんなときは、深呼吸をして、原点に戻りましょう。
義援金は、お金を出す人の「少しでも役にたちたい」という気持ちの現れです。
子供が、思案の挙句、お小遣いの7割を「日本に送って」と親に差し出したとき、周りの大人は、ほのぼとのとした感動を覚えます。その子の気持ちが、米国赤十字社を通じて被災地に100万ドルを寄付したアメリカの女優サンドラ・ブロックさんの志に勝るとも劣らないほど尊いものであることをみんなが理解しているからです。
義援金は、「できることをしたい」という気持ちを現すひとつの形です。ですから、募金プレッシャーに負けそうになったときは、「今、私にできることは何か」、「私にしかできないことは何か」を自分自身に問いかけてみましょう。
「役に立ちたい」という真心が原点になっていれば、必ず、自分の内側から、何をすればいいのか、答えが自然にでてきます。
受身ではなく、積極的な判断を下すためのヒント
1)地震警報などの緊急情報を見逃さないため、テレビをつけっぱなしにし、否応なく、被災地の状況を繰り返し繰り返し見ているという方は、「今、自分にとって、何が一番大切なのか」、意識的に、自分自身に問いかけることで、知らず知らずのうちにたまっていた不安が、解消されます。
家族が一番大切だと思った、花の美しさが、かけがえのないものに思えた、支援活動の輪が広がることでエネルギーが沸いてくることを自覚したなどなど、自分にとっての優先順位が明確になり、肝が据わってくるからです。
2)お金のよゆうがない、体調が悪いなど、自分を維持するだけで精一杯の方は、被災現場で、一生懸命努力してくださっている方々の労をねぎらい、感謝と賞賛の気持ちを声にだして言ってみましょう。
現場で働いている方々だけでなく、雨露しのぐ屋根があること、ご飯が食べられること、食材を作ってくれた人々のことに思いを馳せて、感謝し続けると、気持ちが軽くなり、表情が和やかになってきます。なにもしていなくても、和やかな表情を見て、周りの人の気持ちが和らぎます。
3)もし、自衛隊なんだから、消防隊員なんだから、原子力発電所の社員なんだから、やるのが当たり前だと思っている人が周りにいたら、それが、本当に当たり前のことなのかどうか、問いかけ、その人の「当たり前」が、実は、「当たり前」ではないのだと気づくきっかけを作ってあげましょう。
放射能を浴び、健康を害する危険があっても、働かなければならないという就業契約などどこにもありません。
発想の転換、柔軟な対応を念頭に置いた判断のヒント
就業時間後、1-2時間の残業は当たり前、退社時間が、夜の10時、12時になることも当たり前。日本の「当たり前」は、アメリカに住んでいるものから見ると、残念ながら、異常です。
ここは、日本だ、アメリカじゃない。日本には日本のやり方がある。そういって突き進んできた日本が、今、直面している困難は、これまでの「やり方」を見直し、新たな工夫をするための機会だと捉えることもできるでしょう。
そこで、
1)夜は、家族と過ごしたり、一人の時間を楽しむために使い、早寝を心がける。早寝をすれば、朝起きられないという悪循環を断ち切ることができますから、健全な生活が実現し、精神衛生の向上が期待できます。
2)夜の残業、ネオン街の飲み歩きが減れば、電力の重要もおのずと減りますから、原子力発電に頼る必要がなくなります。
3)リーダーがいない、会議が多いなど、緊急事態の対応を遅らせるシステム上の問題が浮上しているのなら、円滑な活動ができるような新しいシステムの構築を考えましょう。
4)放射能被爆が懸念され、被災者に物資を届ける人がいないのなら、日本の技術を駆使したロボットを活用して、物資の搬送してみてはどうでしょうか。
5)「当たり前」を優先したために、電気が足りなくなり、原子力発電所を立てた。しかし、今回の放射能漏れ事故で、原子力発電が、どれほど環境を破壊し、人類の存亡にかかわる危険なものであるかが、明白になった。ならば、今こそ、風力発電や水力発電など、自然を利用したエネルギーの開発を考えてみるチャンスではないでしょうか。
今できること
被災地の住民が、肩を寄せ合い、暴動や窃盗を起こすこともなく、整然と避難所での生活を続けている姿は、アメリカ人からみると、驚嘆すべき事実です。
「ニューヨークであんなことになったら、今頃、どうなっていたことか。そこにくると日本人は」という賞賛の言葉を私は、アメリカ人の友人・知人から、何度となく聞きました。
日本には、ノーベル賞級の科学者がたくさんいますし、海外の学会で、高く評価されている研究者も、大勢います。
異なる指向をもつ私たち一人ひとりが、「助け合いたい」、「未来を生きる子供たちに、平和で安全な世界を残したい」という真摯な気持ちで、一生懸命考えれば、可能性は、それこそ、無限に広がります。
感謝する、平和な未来を思い描く、今、自分にできることを精一杯やる。
そうれば、表面張力で盛り上がっていたコップの水に、最後の一滴を落としたときのように、変化は、ある日突然、もしかすると、明日かもしれないある日、一気にやってくるのです。
鶴田育子
2011/03/20